訪問鍼灸マッサージ

訪問鍼灸マッサージの年収と働き方は?

近年、高齢化社会の進展に伴い、自宅や施設で施術を受けられる訪問鍼灸マッサージのニーズが急速に高まっています。本稿では、訪問鍼灸マッサージでの独立開業に焦点を当て、その年収の実態、魅力的なメリット、注意すべきデメリット、そして成功のための秘訣を徹底解説します。

1.訪問鍼灸マッサージとは

訪問鍼灸マッサージは、鍼灸師やあん摩マッサージ指圧師といった国家資格を有する施術者が、患者様の居宅や介護施設などを訪問し、鍼(はり)・灸(きゅう)やマッサージなどの施術を提供するサービスです。主な利用者層は、高齢者、身体障がい者、要介護認定を受けている方、慢性的な疾患を抱えている方など、通院が困難な方が中心です。住み慣れた自宅でリラックスした状態で専門的な施術を受けられる点が、訪問鍼灸マッサージの大きな特徴と言えるでしょう。

2.鍼灸師・マッサージ師が独立する背景

訪問鍼灸マッサージの年収と働き方は?

 

鍼灸師、あん摩マッサージ指圧師が訪問鍼灸マッサージで独立開業するためには、「はり師」「きゅう師」「あん摩マッサージ指圧師」の国家資格が必須です。これらの資格を取得するには、専門の養成機関(大学や専門学校)で必要な知識と技能を習得し、国家試験に合格する必要があります。これらの国家資格は、独立開業が認められている資格であり、将来的に自分の理想とする治療院を持ちたいと考える方が多く存在します。

しかしながら、独立開業には一定の準備期間が必要です。特に、健康保険などの受領委任制度を利用するためには、一般的に国家資格取得後1年以上の臨床経験が求められます。また、鍼灸・マッサージ業界においては、個人経営の治療院が多く、勤務体系においては、長時間労働、低い給与水準、少ない休日など、現代の働き方とは乖離しているケースも少なくありません。このような背景から、自身の裁量で働き方や収入をコントロールできる独立開業という選択肢を選ぶ方が増えているのです。

3.訪問鍼灸マッサージでの独立のメリット3選

鍼灸師やあん摩マッサージ指圧師が独立開業を検討する際、主な選択肢として「店舗を構える院経営」と「出張専門の訪問鍼灸マッサージ」の二つが挙げられます。ここでは、後者の訪問鍼灸マッサージに特化した独立開業のメリットを3つご紹介します。

 

(1)自由な働き方が可能

店舗型の治療院では、一般的に午前中から夜遅くまで診療時間が設定されており、勤務する施術者は時間的な制約を受けやすい傾向にあります。患者層によっては、早朝や深夜まで対応する必要がある場合もあります。オーナー施術者であればある程度融通が利くかもしれませんが、勤務する立場では、友人との予定を合わせるのが難しく、ワークライフバランスを保ちにくいと感じる方もいるでしょう。

一方、訪問鍼灸マッサージでは、患者様との施術日時を事前に調整するため、突発的な時間変更はほとんどありません。例えば、午前9時に予約が入っていれば、その時間に患者様の自宅へ訪問すれば良いのです。また、自身の希望する収入額に応じて、施術件数を調整できるため、「平日の夜は家族と過ごしたい」「土日はしっかり休みたい」といった個々のライフスタイルに合わせた働き方が実現可能です。

(2)治療院勤務では考えられない高収入も可能

訪問鍼灸マッサージは、治療院勤務と比較して高収入を得やすい可能性があります。一般的な鍼灸師の平均年収は、地域や施設の規模によって異なりますが、およそ300万円〜400万円程度と言われています。[参考資料1]

しかし、訪問鍼灸マッサージで成功している施術者の中には、月収100万円以上、年収1200万円を超えるケースも存在し、勤務時代の3倍近い収入を得ることも夢ではありません。

具体的な収入例として、1回の施術料金を4,000円とし、1人の患者様に対して月に8回施術を行った場合、月間の収入は32,000円、年間では384,000円となります。仮に10人の患者様を担当すれば年収は約384万円、20人であれば約768万円、30人であれば約1152万円と、患者数を増やすことで収入を大きく伸ばすことが可能です。店舗運営のような高額な固定費もほとんどかからないため、高い利益率を維持しやすいのも魅力です。

(3)高い社会貢献度合い

訪問鍼灸マッサージの主な利用者は、70歳以上の高齢者の方々です。日本の高齢者人口は今後も増加の一途を辿ることが予測されており、地域包括ケアシステムの推進により、地域に根ざした訪問鍼灸マッサージの役割はますます重要になっています。[参考資料2]

これまで培ってきた専門知識や技術を通じて、高齢者の健康維持やQOL(生活の質)向上に貢献できることは、施術者にとって大きなやりがいとなります。患者様やそのご家族から直接感謝される機会も多く、地域社会において信頼される存在となることができるでしょう。

4.訪問鍼灸マッサージでの独立のデメリット2選

訪問鍼灸マッサージでの独立開業には多くのメリットがある一方で、注意すべきデメリットも存在します。安易に独立に踏み切るのではなく、以下の点を十分に理解しておくことが重要です。

(1)収入の不安定性

治療院勤務時代は、たとえ給与が少なくても毎月安定した収入が得られます。しかし、訪問鍼灸マッサージで独立開業した場合、集客がうまくいかなければ、収入が不安定になる可能性があります。

店舗型の治療院の場合、立地条件が集客に大きく影響しますが、訪問鍼灸マッサージでは、「個人の信用・信頼」が何よりも重要になります。ケアマネージャーをはじめとする関係機関からの紹介や、患者様からの口コミなどが集客の生命線となるため、日々の施術を通して信頼関係を築き上げることが不可欠です。また、これまで営業経験が少ない場合、自身で積極的に集客活動を行う必要があります。独自の営業手法が必ずしも効果を発揮するとは限らず、場合によっては勤務時代よりも収入が減少するリスクも考慮しなければなりません。

(2)市場の飽和性

前述の通り、高齢者人口の増加に伴い訪問鍼灸マッサージのニーズは高まっていますが、同時に施術者や治療院の数も増加傾向にあり、特に都市部においては鍼灸市場が飽和状態になりつつあります。[参考資料3]

近年では、従来の店舗型治療院も訪問鍼灸マッサージを取り入れるケースが増えており、競争は激化しています。このような状況下で独立開業を成功させるためには、既存のサービスとの差別化を図り、独自の強み(USP:Unique Selling Proposition)を持つことが不可欠です。単にニーズがあるというだけでなく、「なぜあなたから施術を受けたいのか」という明確な理由を患者様に提示できるかが、成功の鍵となります。

5.訪問鍼灸マッサージの独立を成功させるために

訪問鍼灸マッサージでの独立開業を成功させるための最も重要なポイントは「集客」です。店舗を持たない訪問型サービスでは、いかに多くの患者様を獲得し、継続的に施術を受けてもらうかが収入に直結します。

集客の第一歩として有効なのが「無料施術体験」の提供です。無料体験を通じて、患者様やそのご家族に施術の効果を実感してもらい、信頼関係を築くことが、その後の契約に繋がりやすくなります。無料体験の段階から真摯に向き合い、医師の同意書取得まで丁寧にサポートすることが重要です。

また、繰り返しになりますが、「人」としての魅力を高め、他の施術者との差別化を図ることが集客において非常に重要です。あなたの専門性、人柄、コミュニケーション能力などを最大限に活かし、患者様にとって唯一無二の存在となることを目指しましょう。

6.最後に

本稿では、訪問鍼灸マッサージでの独立開業における年収、メリット、デメリット、そして成功のためのポイントについて解説しました。訪問鍼灸マッサージは、自由な働き方と高収入の可能性を秘めた魅力的な選択肢である一方、成功のためには綿密な準備と戦略が不可欠です。

独立開業はゴールではなく、自身の理想とするライフスタイルを実現するためのスタートです。集客という最初の壁を乗り越え、地域社会に貢献しながら、充実した鍼灸マッサージ師としての人生を歩んでいきましょう。

 

参考文献:

厚生労働省:https://shigoto.mhlw.go.jp/User/Occupation/Detail/175

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/kaigo_koureisha/chiiki-houkatsu/index.html

日本経済新聞:https://www.nikkei.com/article/DGXZRSP676401_Y4A800C2000000/