日本では高齢化が進む中、認知症の人が年々増え続けています。2025年には65歳以上の5人に1人が認知症になるともいわれ、本人だけでなく家族や地域社会にとっても大きな課題です。
薬による治療が進化する一方で、生活の中でどう穏やかに過ごせるかが、認知症ケアの重要なテーマとなっています。そんな中、訪問鍼灸マッサージが注目を集めています。単なる身体のケアではなく、認知症の人の心身の安定や、家族の負担軽減にもつながる支援ができるからです。
本記事では、訪問鍼灸マッサージが認知症ケアの現場でどのように活かされているのか、実例を交えながら詳しくお伝えします。認知症と向き合うすべての方に、ぜひ知っていただきたい内容です。
認知症の不安をやわらげる「触れる力」

認知症の方は、記憶障害や見当識障害だけでなく、心の不安や落ち着かない気持ちに悩まされることが多いといわれています。急に怒りっぽくなったり、夜眠れなくなったりするのも、病気の症状の一つです。
訪問鍼灸マッサージでは、優しく身体に触れること自体が、大きな安心感を与えます。鍼灸師やマッサージ師は、痛みを抑えた穏やかな刺激で施術を行い、緊張を和らげることを大切にしています。
施術中の会話も、心を落ち着かせる大切な時間です。「今日のお天気はどうですか?」「ご飯はおいしかったですか?」など、短い会話が心の安定につながり、表情が和らぐ方も多いといいます。
「触れること」には、脳に良い刺激を与え、自律神経を整える働きも期待されています。認知症ケアでは、こうした身体と心を同時に癒す働きがとても重要だと考えられています。
認知症の周辺症状を和らげる可能性

認知症の方に見られる、いらだちや興奮、無気力などの症状を「周辺症状(BPSD)」といいます。これらは本人にとってもつらく、家族の負担を大きくする要因です。
訪問鍼灸マッサージが注目される理由の一つは、この周辺症状の緩和に役立つ可能性があるからです。たとえば、鍼やマッサージには血流を良くしたり、自律神経を整えたりする作用があり、不安感や睡眠障害を軽くする効果が期待されています。
実際、訪問鍼灸マッサージを利用することで、夜間の不眠や昼間の落ち着かなさが軽減したという声も多く聞かれます。薬に頼るだけではなく、自然な刺激によって症状が落ち着くなら、本人にとっても家族にとっても大きなメリットです。
もちろん、すべての認知症の症状が改善するわけではありません。しかし、薬だけに頼らない選択肢が増えることは、認知症ケアの現場にとって大きな希望といえるでしょう。
家族の孤立を防ぐ訪問の存在

認知症の介護は、家族に大きな負担を強いることが多いのが現実です。体力的にも精神的にも疲れ果て、誰にも相談できずに孤立してしまうケースもあります。
訪問鍼灸マッサージの施術者は、患者様だけでなく家族の話を丁寧に聞く役割も果たしています。「この頃、夜に怒りっぽくて困っています」「食事中に立ち上がってしまうんです」など、介護の悩みを打ち明ける場にもなっています。
また、施術者が訪問することで、家族がほんの少し休息できる時間が生まれます。「施術してもらっている間に自分は家事ができる」「少し昼寝ができる」など、家族にとっても大きな助けになるのです。
介護する家族が笑顔を取り戻せば、それは結果的に認知症の方の安心にもつながります。訪問鍼灸マッサージは、家族の心のケアも担う存在だといえるでしょう。
地域で支える認知症ケアの一翼として

これからの時代、認知症の方を支えるには医師や看護師だけでなく、地域全体で取り組む姿勢が必要です。訪問鍼灸マッサージは、その中で重要な役割を担っています。
施術者は地域のケアマネジャーや訪問看護師と連携し、患者様の体調変化を共有します。たとえば、「最近、転びやすくなっている」「食欲が落ちてきた」など、生活の細かな変化を見つけるのも訪問の強みです。
ICTを活用した情報共有も進んでおり、訪問鍼灸マッサージの記録が医療チームに役立てられるケースも増えています。こうした連携が、認知症の方が住み慣れた家で穏やかに暮らすための大きな支えになるでしょう。
認知症ケアにおいては、「その人らしさを尊重する」ことが最も大切だといわれます。訪問鍼灸マッサージは、身体への優しい刺激と心への寄り添いによって、まさに「その人らしさ」を支える存在だといえるのではないでしょうか。
穏やかな日々への一歩として
認知症は、完治が難しい病気です。しかし、生活の中で穏やかに過ごせる時間を増やすことは可能です。訪問鍼灸マッサージは、そのための選択肢の一つとして大きな希望を与えています。
「施術を受けると気持ちが落ち着く」「夜にぐっすり眠れるようになった」という声は、患者様本人からも、家族からも多く聞かれます。小さな変化かもしれませんが、穏やかな日々への確かな一歩です。
訪問鍼灸マッサージの施術者たちは、ただ技術を提供するだけではありません。認知症の方の表情や声をしっかりと受け止め、その人らしさを尊重し続ける存在です。
これからも認知症ケアの現場で、訪問鍼灸マッサージが果たす役割は大きくなるでしょう。最期まで安心して暮らせる社会を目指して、専門家たちは今日も地域を走り続けています。
参考URL
- 厚生労働省「療養費の支給について」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryouhoken/ryouyouhi/index.html - 厚生労働省「地域包括ケアシステムとは」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000188411.html - 全国保険医団体連合会「療養費の取り扱い」
https://hodanren.doc-net.or.jp/hoken/ryoyohi.html - 日本鍼灸師会
https://www.harikyu.or.jp/ - 日本あん摩マッサージ指圧師会
https://www.zensin.or.jp/ - 東京都福祉保健局「訪問マッサージの保険適用について」
https://www.fukushihoken.metro.tokyo.lg.jp/iryo/iryo_hoken/ryoyohi.html - 国立健康・栄養研究所「統合医療情報発信サイト」
https://www.ejim.ncgg.go.jp/
厚生労働省「医療従事者ナビ」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000052492.html